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【TPP交渉の波紋】(上)農業者 聖域侵食 困惑と怒り

  • 2015年8月2日 14時09分

 現地時間7月28~31日(日本時間7月29日~8月1日)に米ハワイ州で行われた環太平洋連携協定(TPP)の閣僚会合。大筋合意に至らなかった中、交渉途中で小麦や乳製品など、農産物の市場開放の情報が数多く漏れ伝わった。十勝の生産者からは「政府は(麦や牛・豚肉、米など)重要5項目の関税を維持するとした国会決議を守る気があるのか」との声が多く上がった。農業、流通、有識者など各方面から交渉の余波を探った。

十勝で最終盤を迎えた小麦収穫。TPP交渉の先行きに不安を抱えながら麦を見詰める加藤さん(1日、上士幌町で)

 「小麦やビートが作れなくなったら一体何を作ればいいのか分からない」

 十勝は今、小麦収穫の終盤だ。上士幌町の畑作農家9戸でつくる麦作集団の集団長を務めている加藤照夫さん(51)は1日、収穫の指示を出しながらこう語った。

 自民党は2012年総選挙で「聖域なき関税撤廃を前提とする限り、交渉参加に反対」と公約し、政権を奪還。「聖域」とは重要5項目を指す。翌年、「撤廃が前提でなくなった」として交渉参加し、国会では重要5項目の交渉除外を求める決議がなされた。

生産対策縮小も
 しかし今回の交渉では、5項目のうち、米、麦、牛・豚肉、乳製品の4つまでが市場開放の対象との情報が流れた。中でも十勝の基幹作物の小麦で、実質的な関税(マークアップ)が8年後に45%削減と譲歩案が伝えられたことは、生産者に衝撃を与えた。

 マークアップは12%しかない小麦の自給確保に向け、生産者に交付される補助金の財源で、生産者の小麦の手取り収入のうち6割程度を補助金が占める。小麦受け入れ作業中だったJA上士幌町の佐藤浩敏農産部長は「仮に45%交付金がなくなれば、生産者の手取りは3割ほど減って生産意欲の減少は避けられない」と心配した。

 自らロボットトラクター開発などコスト削減や、パン店の要望に応じた多品種栽培に取り組む音更町の農家・三浦尚史さん(45)は「いつかこうなると想定していたが、急すぎる。夢を持って取り組んでいるのに…。やれることからやっていくしかない」と前を向いた。

 牛肉も引き続き、日米間で現行の38.5%から9%への引き下げが伝えられた。士幌町で肉牛約1300頭を飼養する十勝畜産農業協同組合の松山幸雄組合長(65)=松山牧場代表=、は「暗闇の中で決まっている印象。なすすべがない」と困惑する。

 TPP交渉は合意見送りとなったが、松山組合長は「関税がなくなる方向性は止められない」とみる。外国人研修生の受け入れ組合を設立するなど経営努力も続けるが、「(欧州など)多くの国も自国の農業を守るための保護政策を取っている。国内対策をしっかりしないと、生産者は立ち行かなくなる」と訴える。

「流れ止まらぬ」
 乳製品は各国の思惑が絡んで混乱したが、輸入枠拡大の方向性は示された。家族経営で乳牛約70頭を飼う幕別町の高橋光秀さん(64)=JAさつない組合長=も「合意見送りは正直ほっとしたが、結局、流れは止められない」とみる。

 その上で漏れ伝わる交渉内容に「政府は国会決議を守るといったが、私は守られたとはいえないと思う」と憤る。

 国内は酪農家の減少で昨年からバター不足も発生。ただ、06年には逆に牛乳が余って廃棄し、輸入に頼った結果、海外の干ばつなどの影響を受けて08年に今以上のバター不足が起きた。

 高橋さんは「TPPなど先行き不透明な状況から、設備投資や規模拡大をためらう様子見の農家も少なくない。うちも今後どうするのか、次の方向性をまだ決めかねている」と話し、TPPが国内の安定供給に影を落としている。

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