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【年間キャンペーン とかち 新・働く考】特別編 復興のまちで(上)

2013年03月12日 13時40分

 十勝毎日新聞社の今年の年間キャンペーン「とかち 新・働く考」。特別編として、豊頃、大樹両町の姉妹都市で十勝と縁が深い福島県相馬市を取材。東日本大震災被災地の産業や雇用の現状を探り、そこで働く人たちの声を聞いた。
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「ただ会社を守って従業員を見捨てることはできない」と話す岡田社長

地域にとどまった企業
守った雇用 求人高倍率に

 「このまま、やめてしまおうとも考えた。でも、従業員は家族。従業員の顔を思い浮かべると、そうはいかなかった」

防護服で搬出
 震災から1年2カ月後の2012年5月、精密機器製造「フジモールド工業」の岡田利一社長(62)は約100人が働く本社工場を相馬市内に移転し、再開した。ベトナムや香港など海外工場に集約する道もあった。しかし、「被災地の雇用を守らなければ」との思いが、福島に残っての再出発を選択させた。

 同社は、福島第1原発からわずか7キロの福島県富岡町にあった。地震翌日の11年3月12日に避難指示が出され、98人の従業員は散り散りに。原子炉建屋が爆発で吹き飛び、「もう富岡には戻れない」と覚悟を決めた。

原発事故を乗り越え、相馬市内に再建されたフジモールド工業の本社工場

 同19日、相馬市に隣接する新地町の工場に13人が集まり、再起への模索が始まった。

 製造の「命」となる金型を取りに、放射能の防護服を入手して富岡町に向かった。「業務命令でも社長命令でもない」という呼び掛けに5人が手を挙げ、通常はクレーンで上げる重さ数百キロの型を人力で車に載せた。その後、相馬市内の空き工場を紹介され、念願の再開にこぎ着けた。

 「働く場所がないと若い人が流出する。一日も早い再開を」。震災後、相馬市の呼び掛けに、地元の精密部品製造「アリーナ」(高山慎也社長)が真っ先に応えた。工場の天井は落下。従業員200人のうち3人が、消防団での活動中などに津波にのまれた。それでも天井にシートを張り、10日後に工場を動かした。

増す復興需要
 「地域の雇用を守らねばという思いだった」と福山昭雄工場長(61)。15人が津波で家を流され、今も仮設住宅から通う社員がいる。受注も半分まで落ちた。それでも、「仕事がなくなれば大変。注文は減っても、より高精度の仕事をしよう、みんなで努力しようという意識が生まれた」と振り返る。

 同市の吉野光一産業部長は「おかげで労働者は、ほぼ流出しなかった」と企業の踏ん張りに感謝する。2年たった今、復興需要で企業は積極的に人を求め、同市を含む相双(そうそう)地区の有効求人倍率(昨年12月)は2.42倍と全国平均の3倍に達する。ハローワーク相双は「(有効求人倍率は)日本でもトップの地域。職種を選ばなければ、みんな就職できる」とする。

 しかし、その数字の裏ではさまざまな問題が起きている。

相馬市内の工業団地に立つ仮設住宅群。家族と散り散りに暮らし、狭い居室でストレスを抱えながら働く人も多い

人手不足 補償金が拍車
 「募集しても人が来ない。何とかして」。ハローワーク相双には連日、企業からの要請が絶えない。昨年6月に1倍を超えた求人倍率はその後、急上昇。同12月は求職者数1377人に対し、求人数は3334件。なのに、就職はわずか228件だ。何が起きているのか。

 「まず外から人が入って来ない。要因は放射能だろう」。同ハローワークの菊池正広統括職業指導官は語る。高精度の製造業などは働ける人が限られ、職種のミスマッチも起きている。「子供が震災のトラウマでおびえ、母親が働きに出られないケースもある」。卸・小売り、飲食店の人手不足は深刻で、隣の南相馬市ではコンビニも24時間通しては開けられない状況だ。

 さらに問題と指摘されるのが震災の補償金。給与を上回る収入に、働く意欲を失う避難者も多いという。震災後に約20人を採用した岡田社長も「来ても長続きしない。本気で働く人があまりいない」と嘆く。

不安感根強く
 同社でも震災でショックを受け、「東電の補償でやっていきます」と会社を去った人もいた。一方で、継続して働く人には不公平感が広がる。今までできたことでミスをする社員が増えた、と岡田社長は感じる。「福島は今、本当にやる気がある人も地に足が着かない状況。一番の難問は従業員の心のケアです」

 ある社員が心境を吐露した。「仮設は寒く、隣の声も聞こえて眠れない。先を考えると頭が痛く、仕事でも怒られるとストレスがたまり、どうしようもない」。岡田社長は悩む。「かわいそうだが、われわれにできることは、会社を一日も早く安定させ、生活だけでも安心させてあげること」

 原発事故と放射能の問題は、復興に向けて頑張る被災地の「働く」現場にも暗い影を落としている。(小林祐己)



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