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【美食ナビ-首都圏事情-】 忘れられない味

2010年08月29日 12時41分

富士山頂 場所と状況の演出
 忘れられない味がある。タイの屋台で食べたトムヤムクン。ねっとり暑い空気の中、パクチーの香味とレモングラスの香りに体中が刺激を受けてタラタラ汗をかきながらも、すする手が止まらない魅惑の味だった。潮風香るシチリアのレストランで食べたアンチョビパスタ。パスタのゆで加減とその塩味が絶妙で、そのほかの具は何もなくてもごちそうに感じたほど鮮烈な記憶として残っている。最近、そんな忘れられない味に加わったのが、いいのか悪いのかカップラーメンだ。

 美食とはほど遠い食事だと思う。けれども、標高3700メートルの富士山の山頂で食べたカップラーメンは、忘れられない味となった。

 7月、かねてチャレンジしたいと思っていた富士登山に挑戦した。体力不足を恨めしく思いながらも、一歩ずつ歩を進めた。途中の休憩で食べたチーズやチョコレート、角砂糖などが、エネルギーとして全身に染み込んでいくのを感じた。8合目の山小屋に着いたのは午後8時。仮眠後、未明の1時に出発し、一路山頂を目指す。頂が見えてからがとてつもなく長い9合目。気温約5度の中、寒さと疲労で半ば足を引きずりながら山頂に着いたときには、意識もうろう。寒さで震えながらご来光を待つこと30分。少しずつ明るくなる太陽の光で体がみるみる温まっていく。体力の限界に達しながらも、感動で立ちつくし、太陽の存在感にただただ圧倒された。

 満ち足りた心は空腹を呼ぶ。冷え切った体をしんから温めるべく、欲したのはカップラーメン。山頂の山小屋で販売されている価格は、なんと1個700円。それでも迷わず買い求め、スープを一口すする。しょうゆ味のしょっぱさが心地よく、さらに体を温めてくれる。めんをすすり、かむと、酸欠で少しボーっとしていた頭が覚めた。最後の一滴までごちそうのように食べたそれは、私にとって忘れられない食事となった。

 食べる場所とシチュエーションを組み合わせた忘れられない味を求め、次は何にチャレンジしようかと考えている。(十勝屋総支配人・林真由)

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