特集
【リーダーの視点】満寿屋商店 杉山 雅則社長
帯広市を中心に「ますやパン」などを展開する満寿屋商店。十勝産小麦にこだわったパンは、地元だけでなく首都圏の北海道物産展でも評価が高い。杉山雅則社長は、31歳に就任後、全商品に十勝産小麦を使った「ますやパン麦音」(帯広市稲田町)のほか、レストラン、ピザ専門店などを相次いで出店した。管内で注目を集める若手経営者の1人だ。地元に根差したパンづくりへの思いや地産地消、食育の取り組みを聞いた。
(聞き手・安田義教、写真・折原徹也=毎月最終金曜日に掲載)
十勝の食極め名物パンを

十勝を極めたパン作りのこだわりを語る杉山社長
地場小麦もっと地元の人へ
−旗艦店の麦音はオープンから1年余りがたった。
売り上げや客数は目標通りに来ている。十勝の良さを再発見するのがテーマで、地産地消や食育の集大成となる店になった。
−今月初めには帯広競馬場内の「とかちむら」に新業態の手作りピザ店を開店させた。
十勝の食材をいかに十勝の人に喜んでもらえるかを考えた。石窯で2分ぐらいで焼き上がる設備は、パン屋ではできない。足寄の木質ペレットなど、燃料も食材も十勝産を使った。
−景気低迷や、消費不振への対応は。
パンは景気に左右されにくいとされるが、暑さや小麦粉不足など外的要因の影響を受ける。原材料の値上がりはあるが、少しでも買いやすい値段にしている。お客様のニーズは多様化した。おやつに始まって朝食になり、今は昼食の代わりとして需要が伸びている。安いパンだけが売れるのではなく、サンドイッチでも単価の高い物も売れる。
−材料にも十勝小麦など、地元産へのこだわりが強い理由は。
パンで60年間商売し、小麦の価値を最大化することが当社の使命。小麦は十勝の主要農産物であり、十勝産小麦の取り組みは父の時代から20年になる。パン用小麦の国内自給率が1%もない中で、地元産のパンやうどんが食べられる環境は「豊か」といえる。目の前に小麦畑があり、これだけ生産している地域で、1万キロも離れた所から持ってくる外国産小麦のパンを食べるのは少し矛盾しているのでは、と思う。価格は多少高いが、何倍という差ではない。コンビニのパンが悪いわけではないが、十勝産小麦のパンがすごくおいしいというブランド化をして、地元の人にもっと食べてもらいたい。

敷地内に小麦を植え、カフェスペースでその成長を眺めながらパンを食べられる「ますやパン麦音」
当面は食材、社員の感性、農家さんとのつながりなど、十勝をもっと極める。(全店では)まだ十勝産小麦100%でないので、それが1つの目標。十勝の食材も活用できるものがたくさんあるので深掘りしたい。それには技術が必要。技術は人材によるので、職人向けの講習会や道外パン店への修業、ヨーロッパ研修などを進めていく。商品開発、接客、店づくりと各店舗をグレードアップさせたい。
食の思い出作りで人材育成
−食育活動にも力を入れている。
麦音でパン教室を開き、学校行事や子供会などへの出張ピザ教室は、今年は40回ぐらい、延べ2000人以上が参加する予定。ピザは自宅でも気軽に作れるので、地元の小麦、食材を使いおいしいピザを食べようと伝えたい。ますやの考える食育は、地元の食材に触れて、おいしいとか楽しいとかの思い出をつくってもらうこと。難しいことではなく単純に楽しんでもらおうと考えている。
−その狙いは。
少子高齢化で人口が減る中、十勝の農業や食産業を発展させるためには、この地に、いかに優秀な人材がいるかどうか、その人材が十勝の価値を感じて頑張るかに尽きる。そのための“種まき”を、パン教室などで少しずつやっている
−農家や地元企業、学校とも連携した商品開発も盛んに行っている。
なるべく多くの人にかかわってもらい、作りたいという思いがある。農家さんからは、こういう小麦や野菜を使ってほしいとの提案を受ける。一生懸命作った思いがあるからこそで、その思いが分かればパンを作る方も真剣になる。売る方も、多くの人に食べてもらいたくなる。

十勝の立地を生かした基幹産業は農業しかなく、農業を核に食産業、観光産業が付帯していくべき。今は農業に補助金が多く入っているが、将来も続くのか保証はない。地域間競争が激化する時代に存在意義、魅力のある十勝になる必要がある。
十勝の1番の課題は、これだけ豊かで素晴らしい環境に恵まれていることが、自覚されていないということ。地産地消、食育も、これだけ豊かな所でできなければ、どこでできるのかと思う。
−将来的な目標は。
「十勝のパン」を作ること。十勝の材料をふんだんに使い、十勝でしかできない、「十勝だったらこのパン」という名物になるものを。食材の研究、技術を磨くなかで、確立されていくと思う。ヨーロッパの人のように、ジャガイモでも、トウモロコシでも、パンでも、自分の地域のものが世界一おいしいと思ってほしい。そうなれば住んでいる人が幸せになれると思う。
プロフィール 1976年帯広市生まれ。帯広柏葉高、第一工業大(鹿児島県)卒。米国での製パン修業を経て、2000年に日本製粉(東京)に就職。祖父の健一氏が創業した満寿屋商店に02年入社、東京営業所長を経て04年6月から専務、07年9月に母で現会長の輝子さんから社長を引き継いだ。恵子夫人と市内で2人暮らし。
<取材を終えて>
高付加価値化1つの方向性
杉山社長は、ピザの石窯を積んだ軽トラックを自ら運転し、小さな集まりにも出向いてピザ教室を開いている。何度か取材したが、食の思い出づくりが十勝を担う人材づくりにつながると、背景にある大きな狙いを聞いて感心した。十勝産小麦へのこだわりは、父親の健二社長(故人)、母親の輝子会長と親子2代に引き継がれている。農畜産物の高付加価値化は十勝の長年の課題だが、1つの方向性や答えを出し、実践している。



