特集
【リーダーの視点】帯広信金理事長 増田 正二さん
各種指標で緩やかな回復基調にある日本経済。ただ地方でその実感は乏しく、不透明感も漂う。十勝経済の先行きはどうなるのか、企業は何を武器にどう向き合うのか−。管内を代表する経営トップに自社や業界の取り組み、十勝発展への針路を聞く。第1回は管内預金シェアトップの帯広信用金庫の増田正二理事長。(聞き手・安田義教、写真・金野和彦=毎月最終金曜日に掲載)
地域貢献 職員と共有

「事業価値向上への挑戦」を掲げ、信用金庫の新たなサービスに取り組む増田理事長
シンクタンク機能を強化
−十勝経済の現状は。
年明けから新たな工事が急激に減少していて不安を感じる。民間の設備投資や住宅投資が大きなポイント。農業生産にも注目している。
ただ公共事業削減が尾を引く一方で、1次産業は非常にしっかりしている。昨年の天候不順でも、耕種部門の落ち込みを畜産部門がカバーし(JA取扱高が)2444億円を維持できたのは十勝にとって大きい。全体では低調の域を脱しないが十勝の足腰の強さは経済指標にも表れている。悲観することはない。
−新中期経営計画(新中経、2009〜11年度)では「事業価値向上への挑戦」を掲げている。
金融機関の役割は仲介と預金機能の提供が2本柱。だが、右肩上がりではない今の時代では不十分。地域に要請されているサポート、コンサルタント、シンクタンク機能に力を入れることが、地域の金融機関である信用金庫のビジネスモデルを向上させ、事業価値を上げることになる。
−地域経済振興部を昨春設け、今春から増強した。
現在の預金50%、融資40%というシェアは、地域に果たすべき責任の大きさとイコール。それを考えて設置した。必要とされるマーケティングやビジネスマッチングの手伝いは、ネットワークを持つ金融機関ならではと思う。
同部の増員は、事業価値向上の面で極めて重要だから。地域活性化に取り組んでいる効果がいつ表れるかは分からない。ただ、取り組まなければ地域金融機関の存続意義がどんどん失われる。費用対効果が十分見えない部門に資金投下するのは勇気がいる。逆に言うと、地域への強い思いや経営に対する強い信念がないと、経営資源を投下できないし、現場も動けない。

帯広市西3南7の帯広信金本店

開設の狙いは金融機能の集中で、より質の高い金融サービスを地域に提供すること。帯広駅南地区の発展も大きな主眼だった。業績面はいいが、4店舗を1つにしたことで不便を感じるお客様もいる。配慮、対応策を急ぎたい。6000億円は十勝の経済力の底堅さを物語る数字。ただ私の中では、預金増強以上に役職員が一つの方向に向かえた面が大きい。
−その理由は。
帯広信金として一番大事なのは、お客様、地域に対する思い。それが根底にあり、そこから発生しないと、生きたいい仕事はできない。金庫としてお客様に一生懸命取り組む姿を見て、初めて職員もそういう気持ちで仕事をしてもらえると思う。それに共感や誇りを感じる人が増えることが、ディスクロージャーには載らない、うちの一番大事な資産。職員に普段求めることと経営が反対の方向にいったらだめ。組織で自己矛盾が起きる。
経営の方向性に満足してくれるお客様がたくさんいることが、何よりも大事な財産。お客様や職員という“オフバランスの資産”を厚くすることは、将来のオンバランスにつながっていく。地域経済振興部や、ふれあい相談室の取り組みは、そのために大切な部門と考える。
−理事長就任から3年。感想と今後の方向は。
初年度は大型倒産があり、リーマンショックなど厳しい環境の中で対応に追われた側面はあったが、意図したことはほぼできた。健全性、内部留保も一段と厚みを増した。次世代を背負う人が確実に育つ姿を実感できたのもうれしい。進むべき方向は、今の延長線上にある。信用金庫としてのビジネスモデルを確立するため、必要な組織的課題を解決し、それをベースに、本格的に飛躍させることが、次の新中経になる。
農業を生かし切る工夫を
−十勝の可能性は。
国内需要の減退で需給ギャップは大きいが、食料に限れば需給は逆転している。新政権が自給率50%を掲げ、農業王国十勝が果たす役割は大きい。アイスランド火山噴火などを見ても、海外への食糧依存はリスクが高い。大きく食料需給をみるとき、食料基地として十勝の位置付けは、時間の経過と共に高くなることあっても低くなることはないと思う。道東道の全面開通は、十勝が魅力ある地域になれば大チャンス。道央圏との人口比を考えると仮に10%消費を取られても、逆に人口の10%を取れば効果は大きい。大きなパイを取るチャンスができたと理解すればいい。何をすればよいのかを真剣に考えれば、プラスに働く。地域全体で行動するときだ。
−十勝の課題は。
仕組みづくり。素晴らしい農業を地域で生かし切ることだ。その点で農商工連携は大切。それぞれが課題解決に向かえば、いくらでも発展可能な地域だ。工業統計調査で、十勝の製造品のうち食品加工出荷額は274億円(08年度)。決して小さくはないが、管内全農協取扱額の約10%。この辺にまだまだ地域活性化のヒントがあり、そのことを農業界の人たちも分かりつつある。
プロフィール 1948年新得町生まれ。新得高卒。66年4月、帯広信用金庫入庫。西支店長、営業推進部長、常勤理事本店長、常務理事を経て2007年6月理事長就任。現在2期目。敦子夫人との間に1男1女。
<取材を終えて>
昨年末に預金残高が6000億円を超えた。道内では旭川信金に次いで2番目の規模。札幌進出の意向をよく聞かれるという。道内23信金で札幌圏に拠点を持たないのは8信金のみ。それどころか釧路や旭川にも越境していないが、増田氏は「まだ十勝でやることがいっぱいある。それを脇に置いて札幌へ行けない」と語った。地場経済の底堅さに「十勝が拠点で本当によかった」とも。十勝にこだわる経営、地域と人づくりの強い思いに触れた。



