特集
「絵画と写真の交差 印象派誕生の軌跡」によせて(1)
2009年02月14日 9時43分
ドガの写真の謎を解き明かす

エドガー・ドガは、踊り子や服装を整えるしぐさ、入浴のシーンなど、一瞬の動きをとらえた絵を多く描いている。まさに瞬間をとらえた写真は、ドガの絵に影響を与えたのである。ドガはアマチュアの写真家でもあり、彼自身撮影した写真も多く残されている。モデルの撮影にも立ち会い、ポーズや光の角度など厳しく注文をつけていたことも知られている。ドガは、モデルを撮影した写真を用いて油彩やパステル画に展開していくのである。

「浴後、背中を乾かす女性」
エドガー・ドガ 1896年
The J.Paul Getty Museum,Los Angeles
では、何故この写真は展示されなかったのか、謎解きをしてみよう。まずドガ自身、この写真を持っていることを公表していなかった。次にポール・ゲッティ美術館はこの写真(鶏卵紙プリント)をパリのコレクターから購入しているが、その前の履歴は明かされていない。写真は複数枚存在するので、これと同じイメージの写真をドガが持っていたことは、ベオグラードの所蔵作品以外にも3点の同じ構図の《浴後》の油彩画を描いていることからも推測できるのである。
次に、ドガが撮影した写真か、あるいは指示を与えて撮影したものかも判然としない。ドガの写真に対する興味が熱烈であったことは、ドガを取り巻く友人、知人の手紙や文章の中に見られるが、この写真に対する言及は見られない。この写真は、ドガが、誰かからもらった可能性も否定できない。従って、ポール・ゲッティ美術館としても、エドガー・ドガの作品として出品することにちゅうちょしたのであろう。
これとは別に、ドガの作品に影響を与えたと思われる写真が3点出品されている。これらの写真は踊り子を撮影したもので、モチーフとして多くの作品の中に用いられていることが推察できる。これら3点の写真はフランス国立図書館所蔵のもので、来歴は、ドガの死後、弟によりドガのアトリエにおいて発見されたもので、出所は明らかである。が、生前にドガがこれらの写真を持っていることは、誰も知らなかったのである。従って、こちらのほうも撮影者は特定されていない。ドガは、ひそかにこれらの写真を持っていたのである。
<プロフィル>1949年、香川県生まれ。専攻は写真史。日本大学芸術学部を卒業後、パリ大学に留学。西武美術館、東京都写真美術館、庭園美術館に勤務後、現職。著書に『ヨーロッパの写真史』等。
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