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【あの日あの時−十勝ひと物語−】 舞踊家 松本道子さん(4)
2008年12月04日 16時21分
転機の公演 「高野聖」出発点に相次ぎ創作
私にとって大きな転機となった舞踊公演は1983年、50歳のときに帯広市民会館3階で開いた「高野聖」です。50年生きてきて、私のすべてをこの舞台に封じ込めることができれば、踊りはこれで最後にしたい−との思いがありました。パンフレットには直筆で「踊り終わったときに息がとまってほしいと願いながら」と記すほどの覚悟で臨みました。
大金を投じて札幌や東京からプロの照明、舞台監督、男性舞踊家を招き、すべてが大がかりな舞台となりました。市民会館1階の入り口から3階までの階段すべてに黒い幕でドームを作り、セットには大きな洞窟(どうくつ)を設置。ステージに傾斜をつけ、ズルズルと滑り落ちる不思議なものでした。
踊り手が魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界をつくり出す。ぼーっとしていて果てしない世界に身を沈め、妖女から妖怪へと変身を遂げる。その中で、愛し、憎しみ、混沌(こんとん)の向こう側を垣間見る−。それは「夢の中の一瞬の舞台」でした。
2日間にわたる3回のステージは多くの仲間の支えもあり、大成功。最高の50歳。「できる限りのことはやった。人生、踊り切った」と満足感に浸りました。しかし、1年もたたないうちにほとぼりが冷め、結局その後、毎年のように公演を続けることとなりました。「高野聖で終わり」と思っていた私の舞踊公演は、「高野聖から始まった」のです。
翌年には「たそがれ刻の祈り」を発表。その後もソロで「風の回廊」(86年)、「回帰線」(94年)、「風の時感」(98年)を上演。
生徒だった子供たちが大人になり、30年以上一緒に踊ってきました高井あけみさん、江川貴和子さん、黒川嘉子さんら10人以上の仲間と一緒に「この環の中に時間はゆっくりと落ちていく」(98年)、「放つ火」(2000年)、「浮遊する庭に」(02年)などを群舞で発表。まるで年齢を忘れてしまったかのように、次々と創作し、踊ってまいりました。
06年にはスペインに住む友人の画家北村ヒロシさん、ヒロシさんの妻で女優・ダンサーのマルタ・ロペさんに招かれ、バルセロナの中心街、芸術家の集まる小さなレストランで「永遠と一瞬」が1つの作品として生まれました。
手作りで完成させた感動と公演の後にヒロシから受け取った「人生の木箱」(宝箱)が、最新作である「束間(つかぬ)のあわいに」(07年)へとつながりました。
今、振り返ってみると、25年前の「高野聖」以来、一貫して光と影、昼と夜、生と死など、目には見えないが確かに存在するものを追い続けながら、踊ってきたように思えてなりません。
(聞き手・成田融)
■「高野聖」■ 泉鏡花(1873−1939年)作の幻想小説。原作は魔界と現実が交錯する旅僧の奇妙な経験を描いた作品で、小野寺俊一さんの演出、松本道子さんの主演・振り付け・構成により舞踊で表現した。現代美術作家の佐野まさのさんを筆頭に高橋英双さん、高井あけみさんら男女15人が出演した。
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